GG通信 4
◎鉄道のこと
大きな駅にはチケットカウンターがあって、対面でも切符が買える
けど、ローカル駅ではホームの前に自販機がポツンとあるだけです。
(もう一台、遠距離用切符販売機がある)
その切符を買うのが面白い。 行き先番号を一覧表から選んでテン
キー入力し、切符種類 (片道、子連れ、一日券、グループ券、
何とか券)を押してから金を入れるのですが、表示液晶パネルの
位置がむちゃくちゃ高い。地上1.7mはあります。しかも2世代前
のモノクロ液晶なので、斜めからはなんにも見えないシロモノ。
1.8mも1.9mもある女性もいるけど、 ふつうは1.6mか。たまに
は小さい人もいるのに、どうして切符を買うのだろう。いちど恵子
の目線にまでかがんで見上げたら、空が映っているばかりでした。「お前ひとりじゃどこにも
行けないな」聞こえぬふりをしていました。逆に駅前バスのチケット自販機の操作パネルは、
体を半分にまげないと見えないほど低い位置に操作面がある。変な国。
でも、こんなことをあれこれ言うのは、わたしたち単に暇だからでしょう。みんなチャッ
チャッチャッと慣れた手つきで買っています。駅のゴミ箱周辺には使用済みチケットが散ら
ばっています。DB(ドイツのJR)車掌は律儀に検札にきます。ひとりひとり丁寧にダンケ
シェーンと言います。
バスや市電などでは抜き打ち一斉検札があると聞きますが、一度も出会いません。かなりの
回数、列車に乗っているのに、不正乗車で捕まった人はありませんでした。
皆さんも律儀なのでしょう。そう思っていたら列車のデッキに「不正乗車罰金は40ユーロ
から」の張り紙。安売り広告みたいに罰金まで「○○から」と標記するのが面白い。
やっぱり薩摩守はいました。“さつまのかみ”はもう死語ですねぇ。
◎キー閉込めと最悪の一日
「お〜い鍵はぁ〜」廊下に向かって叫んだけれど、もう階段をおりてし
まっている。先に出る恵子に鍵を渡し、後から出ようとするともう
見えない。「その場で返せよなぁ」とぶつぶついいながら、
ドアをドン!と閉め(オートロックになる)、追いついてから「オイ鍵!
」と言うと「エェ〜ッ」と来た。ドアの内側に差したままだと言う。
「あなたが当然!気がついて抜いて来てくれるものと信じていた」と。悪いのはオレか?
いい加減にしろ。
(ドアは寝る前内側から施錠するので、出るときは鍵を使って開けなければならないのです。)
さあ困った。これだけはしたくないと思っていたことが、現実になった。家の鍵も車の鍵の
閉じ込め も無くしたことがないオレとしたことが!
とりあえず管理人のボスナック夫人に話してなにか方法を探そうと、部屋のベルを何度も
鳴らす誰も出ない。こんなことをしているうちに予定の列車には乗り遅れてしまい。そこらを
スケッチして時間をつぶして駅に来ると、なんと切符 自販機に「使用停止」の表示。
隣の遠距離用販売機でなんとか出そうと苦労していると、大柄なドイツ人が助けてやろう と
来て、さんざん操作したあげくダメ。「こうなると車掌から買うことだね」「そうするよ」と
待っていると列車到着 10分遅れの放送があり、ここでプッツン。
10分遅れると接続はむちゃくちゃ。昼をまわってからフランクフルトに出ても仕方ない。
それにしても、快晴無風だ。 ドイツ晴れ?だ。その上暖かい。数日来のうっとうしい天気が
回復して絶好の外出日和。青空に飛行機がのんびり飛んで 行くのを見るのもうとましい。
しかしこれはもう行くなと言うことだなと、そのドイツ人に「オレたち予定を変えるよ」と
手をふって分かれ、カフェで コーヒーを注文して一息。この騒動でのどはもうカラカラ。
もし、管理人が帰ってこなければ、今夜は外泊か。金は持って出ているので心配ないが、
無駄なことだ。それに鍵は大家さんが持っていて、管理人は持っていないとか聞いたことが
あるな。あの大家さんにまで騒動を広げるのはイヤだ。ボスナック夫人は戻っているだろうか
と引き返してベルを押すと小学生くらいのボクが出て来た。ボスナック夫人は居るの?
「居ない。」いつ帰ってくるの?「知らない。」ヤムを得ない。大家さんだ。
借り物のケータイにしばらくして大家さん(ドイツ名を持つ日本婦人)メッセージがあり、
管理人は病院に行っていて、 2時頃には戻るだろう。合鍵は彼女が持っているとのこと。
近くのビストロでおいしくないパンをボソボソと食べ、駐車場で彼女の帰りを待ちました。
ベンチも無いので塀にもたれてしばし。ようやく彼女の車。見るとニコニコ手を振っている。
近寄ると窓を開けてくれたので、今朝部屋のドアを閉めた時・・とまで言ったら、鍵を閉じ
込めたァ〜アハアハ・・と話を先取りしてくれました。片目つむって大したことじゃない。
大したことですよ!
よくまああの体が入ったものだと思われる小型車から、ようやく自分自身を引き出した彼女は
救いの女神に見えました。 先に立って階段を上るオシリは恵子の4倍はありそう。可愛い
ボクがいましたね。孫なの。それからマスターキーでガチャガチャ。 オ〜 ダンケシェーン!
部屋に入ってからふたりとも沈黙。こっちに居る間お前には鍵を絶対渡さないからな。恵子は
しょげています。まだ2時だが4時には暗くなる。今さらどこにも行けない。窓の外では青空
バックに樅の梢が揺れています。平穏な午後の光景です。
◎許せない値段差
1.5リットルのボルビック6本で4ユーロ弱。スーパーで飲料水を買うとこんな
値段です。リッターあたり0.44ユーロ(さらにペットボトルを返すと返金が
ある)。駅のキオスクで買うと、1リットル1.70に。1.5ではなんと3ユーロ
50!(スーパー価格の5倍強)足もと見るとはこのことか。イヤなら買うな。
これぞ自由主義経済のやるせないサンプル! むかし、北アルプスの山小屋で
タバコを買うと、タバコの値段は地上と同じでも、セット販売のマッチ箱ひ
とつが数百円になっていたものでした。まあボッカ代もかかるか。(売る側
の言い訳顔が見えたし、買う方もそれがわかった。)。売買価格で了解点がありました。
デュッセルドルフやミュンヘン、ニュールンベルクでもメッセ(見本市)があると、ホテ
ル代が一斉に跳ね上がります。それも通常価格の数倍。日本でもトップシーズン価格や盆
暮れ、正月価格とかあるけど、これとは比較にならないレベルに。
(ビジネス客のホテル代は企業持ちだから高くていいのだ。一般客はそんな時期に来るな。
--------→私達もその悪影響で旅行の段取りが狂った。)
価格は需要と供給のバランスの上に成り立つ・・・とか習ったように思うけど、こっちでは
天秤の片側に供給側がどんどん高く積み上げ、一方の天秤に需要側がしぶしぶ積んで行って、
もうヤメたと“音を上げる”直前まで“値を上げる”のが経営の才覚なのでしょう。
「高価格」もオブラートに包んでわからないようにしてから呑ませるなら仕方ないけど、
こうもムケムケにやられたら情緒がない。これからは“渇してもキオスクの水は飲むな”と
恵子に言い渡しました。売店前に立って“それはアコギと言うもんでっせ。おっさん!
”通用しませんかね。これ。
◎浣腸を買いに
トイレは三日もご無沙汰だと恵子が言うので、やむなく薬局に向かいました。浣腸と言う
ドイツ語は事前に字引を引いて覚えました。いきなり“Der Einlauf”と言っていいのかどうか。
説明をどうしようと思いながら、ドアを押すと出て来たのがキレイなおネエさん。
困ったな。これがばあちゃんなら気後れせずに
対応できるけど。二十歳過ぎ?のオジョーさんを
前にしては課題が課題だけに言いよどむ。その上
白衣だ。なにか賢そうに見える。なんであんなのを
着るのだろう。日本でも同じだ。棚から「はい、
パブロン」と客に渡すだけの仕事ならセーターにジーパンでも薬効は変わらないはずなのに。
ウンチだのベンだのいきなり言えば、ひんしゅくを買いそう。ああこまった。すらっとした
きれいな娘だ。鼻筋は細くて額から同じ高さでおりている。ファンデーションが鼻の横に固
まってこびりついているのがご愛嬌だが、こちらが口を開くのを待っている。朝日が斜めに
店内に射し込んで来て、棚の薬箱や設備に深い影を落とし、そのまばゆさ、コントラストま
でが権威的で我々を圧迫して来るように思える。彼女はと、か
たわらの恵子をアゴで示して、3日間トイレに行っていない。
とかろうじて言えば、棚からサッと小さな箱を取り出して来る。
ちがうちがう緩下剤じゃない。こまったなイチジクと言えば
いいのかな。(ドイツ語でイチジクと言えば、女のあそこの
意味がある)まさかお尻から突っ込むのだとは言いがたい。
言いよどんでいると、恵子が空中にお尻の絵を描きだした(角を丸くしたWの文字)。そして
そのまんなかに指をつきさしているではないか。怖いもの知らずだ。取りようによっては
卑猥な絵だ。鼻高美女は不思議なものを見る顔をしている。
ようやくグリセリンとかグレコール液で・・・と言うと、ツイッと奥に入って小箱を持って
来た。これだこれだ。4本入って7ユーロ50。
帰って字引ひきひき効能書きを読みました。妊婦は使うな。当然だ。幼児と乳飲み子は半分に
しろ。後はQ&Aがずらり。形は日本のとは全く異なって、普通のチューブだけど、首が長くて
先は蝶ネジ風になっている。それをグイッとねじれば、首が途中で切れて突っ込みやすくなる
のだなと恵子に言おうとすると、もう済んだと言う。せっかく苦労して買ったのに。オマエ
土産にもってかえれ。ほんまに人騒がせな!
◎魚の話
ドイツに魚は無いだろう。内陸だし、豚と牛か。それにトリとかで二月半を暮らすのだと
思ってました。刺身は別にして、魚は新しければイヤじゃないけど、目がドロンとしていて
ムォッと臭ってくる魚ほどイヤなものは無い。第一、骨がある。それをヨケヨケ肉を探して
食うのは面倒だ。あれは食うと言うより“ついばむ”感じだナ。向かいに座って身だけを取分け、
どうぞと勧めてくれるなら、食ってやってもいいけど、と思っていましたから、肉ばかりと
言われても平気でした。
来てわかったことは、単位が大きすぎること。どんな肉も500g以下のパックはありません。
それに日本のものよりなにか大味。ふたり所帯では一度買えば何度も同じものを食うことに
なるし、素材の味よりもブイヨンとかハーブで無理矢理味付けした料理は、少々愛情のフリ
カケが足してあってもいずれは飽きて来ます。
そんな時、スーパーの棚で見つけたのがニシン。手に取ってみると三枚に下ろした身をグル
ぐるっと巻いてビンに入れてある。まるでホルマリン浸けだ。おまけに大きな口をあんぐりと
開けてこっちを見ている。(あとで牧師夫人に聞くと酢浸けで美味しいらしい)
あぁ〜これは食えんなと棚に返して、そこらを見るとあるある。鱒のフィレ。
鮭の薫製。冷凍ケースにはツナステーキ。鮭の切身。寿司種ヒラメのフィレ。
白身魚のフライ・・・カンズメもいろいろ。私の持っている古い字引に乗って
いない魚の名前もある。それに安い!!どの魚も包装には皮は剥いてある、
小骨も取ってある。と書いている。オーこれだコレダ。
知人から送っていただいた貴重な魚沼産の米でメシを炊き、分厚いマグロの
ステーキに貴重な醤油を惜しそうに垂らしていただきました。ウチで味わうより数倍贅沢な
食事!“これはこれは長年慣れ親しんだエネルギー源でございますねぇ〜”と胃袋が感動にうち
震えて言っているように思えるほどの美味さです。
そんなわけでウチの冷蔵庫には魚がどっさり。もちろんソーセージやハムもあるけど、昼は
これにしようか、夜はあれを焼こうかと思うと幸せ感がわいて来ます。不思議ですね。
こっちへ来て魚ファンになって帰るのでしょうか。
ビン詰酢漬けニシン