GG通信 3

郵便局からの帰り道、この家を描くのだと恵子が言いました。別にどうってことも無い家ですが、壁色と止まっている赤い車との対比がいいのっ!と言うわけ。しばらくするとヒゲのオヤジがその家から出てくるではありませんか。

気に入らないことでもあるのかなと思っていると、この家を描いているのか?と来た。そうだ

彼女は(女)画家だ。気に入ったのか。そうだろう。オレはこの家を売りに出しているのだ。ハァ〜。40万ユーロでどうだ? 高くないね。日本じゃもっと高いよ。金があればなぁ〜

(実際はつっかえつっかえの会話でしたけど)

そこでくだんのオヤジは脈がないとみたか、バイバイと手をふって家に戻ります。おい、6,000万もするでぇ〜、あの家。それにしても家を描いているだけで売りつけに来るとは!こんなの

生まれて初めて。オレたち金があるように見えたのか。二人共着たきり雀のジャンパー姿の

ジイサンバアサンなのに。よほど売り急いでいるのかねぇ〜。

数日してその家の前を通りました。よく観察すると土地だけでも200坪以上ありそう。総二階でロフトもある。建物もりっぱリッパ。オイ、我家を売ってこれを買おうか?(6,000万にはほど遠いか)グロスゲラウを描く会でも組織して長期滞在を受け付けたらどうや。その家を横目で

眺めながら通過した次第でありました。

 

 

              その少し前、広場に面して大きなショーウインドウあり、ケーキ

              やチョコレートを所狭しと飾っている店に入りました。三重あご

              の女主人がいたので、どれがおすすめ?などと余計なことを言っ

              たばかりに片っ端から大声で紹介され、まずはへきえき。

              (いい加減なドイツ語力なのに、その上ケーキ名や加工方法名な

              ど知るものか)

アップルトルテが美味そうだったので、二つ注文しました。生クリームを

かけるか?と聞くので一個だけでいいと返事し、さて出て来た代物の大き

いこと。昔アルミの弁当箱がありました。それにギッシリとケーキを詰め、

半分に切って皿にのせたよう。ホイップクリームをかけた方は氷山を乗せ

たように光っている。日本じゃ1個がふたり分か、もっとか、と言いなが

らパクつきました。

おいしく食べられたのは半分くらいまで。左右のテーブルには初老、中老の人たち。みんな

もっと大きなのをやっつけている。恵子があなたお願いと言うので見ると半分近く残っている。残せば日本男児の名がすたる。

とにかく私が全部食べました。恵子の残したのもよこせと言って取り上げ、片付けました。

その夜、いつまでたっても腹が空かないばかりか、のど元にリンゴがある。この世にはこんな

苦しみもあるのです。

今日同じ店に行きました。ケーキの注文はもちろん1個にして。コーヒー飲んでケーキは

半分こにして5ユーロちょっと。美味かったうえ、ゆったりした時間でした。ヤレヤレ。

 

 

これと言った取り得はないけど、歩くのだけは自慢していました。こちらへ来て車がなくて、

歩けばいいじゃんかと

気にもしませんでした。ところがいつ頃からか右足、かかとが痛んで来たのです。なんかおか

しいなと思っているうちにどんどん痛みがひどくなり、画鋲を足裏に突き刺して歩いているくらいになりました。これは大変とセクターゲルをスリ込めば、明朝には痛みが引いています。

出かけると同じ痛みが。ウォ〜ッです。足の裏を指の腹で押すと、痛いところがわかります。

かかとの中央から土踏まずのほうへ少し行ってちょっとだけ内側によった所。面積は親指腹の

輪郭かちょっと広いか。

段差を作れば?と恵子がユーロショップ(百均と同じ店)で防寒用靴下を見つけ、右かかとを

切り取って穴を開けてくれました。それくらいじゃダメだと、同じユーロショップでこれまた

防寒用靴中敷きを見つけ、該当個所に穴をあけました。シャープナイフで切り取るのです。

それでもダメなので、もともと敷いていた中敷きも穴を開け、段差を大きくしてはいています。

座った姿勢から立ち上がり、初めて右足を突き立てるときが一番痛い。馬のひずめに打ち付ける馬蹄みたいなものがあれば、それが堅めのフェルト製なら足裏に接着したい気持ちです。

あとひと月とちょっと。帰ったら広田医院に行こう。それまでだましだまししか方法はなさそうです。そうかそう言えば背を高く見せるための中敷きってあったな。その中をくりぬけばいいか。さてドイツでも売っているのか。今日、知合いにハガキを出しました。いろんなことが

たびたびあるから旅だなどと我ながら不出来な駄洒落を付け足して。

 

 

           手押し車を押した老婦人が入ってきます。果物屋の狭い出入り口です。

           ちょっと道をゆずり、恵子にも下がれと手真似したら、そのご婦人は

           「ナイン!」道を譲ろうとすると、譲らなくていいとは何事か。腑に

           落ちない顔で見返すと、とうのおばあさま、手押し車の前を指さして

           これを見ろと言っています。そこにはなんと大きなベンツのマーク!

           あっけにとられて見返すと、老婦人の得意満面の顔。

           オォッ、シュテルン ヴンダーシェーン(星マーク、スゴイ!)と言

           えただけで大笑い。

           シャレ冗談のすきなひとか。単なる目立ちたがり屋なのか、店の外へ

           出てからも笑いが止まらない。

日本ではこんなことをするおばあさんはいないだろうなぁ。旅のひとコマとして上出来の日に

なりました。

誰かにもらったか、ベンツのマークを老人用手押し車(日本のより一回り大きい)につける

だけで大受けするのなら、それは優れたアイデアだ。でも帰ってから同じことをして生協に

行ったらどうなるだろう。やっぱダメか。何が違うのか。

 

 

今日は17日。出発してからちょうどひと月になります。来週月曜からまずニュールンベルク、それからミュンヘン。一週間おいてベルリン滞在の予定です。後はデュッセルドルフとケルン。時間が許せばウルムまで。

グロスゲラウはだいぶん慣れました。1万キロも離れた異国にいることを忘れます。予定通りにゆかないけれど、まあまあなんとかやれていることに感謝しています。

勝手な旅をお許しください。今度は多分ミュンヘンから帰って通信することになるでしょう。

 

おばあさんの
ベンツカート?こんなのでした。

EU中央銀行近くのゲーテ像・フランクフルト