GG通信 2
11月になったとたんに寒くなりました。それもいっぺんに冬。今朝、はれやかな青空の気持ち
のいい朝でしたが、出かける頃になると一面に雲が広がりサァ〜ッと時雨です。
風が強く、落ち葉が空を飛んでいます。寒波来襲なのかもしれませんが、近代情報伝達手段
から途絶しているものですから、天気予報などなかった明治時代のまま。降るのも照るのも
そのとき次第。
ほぼ毎日、駅までの道をブラブラ歩いてゆきます。途中にある古びた小さな一軒家。
蔦に覆われた壁とくすんだ屋根瓦。庭に立木の幹を地上2mほどで切り落としてその上に
大型の巣箱?を乗せた作りがあります。ボッシュの祭壇絵か、ブリューゲルの銅版画に
出てくる姿そっくり。魔女は遠い山奥にいるのが普通だから、さしずめ魔女のお旅所かと、
恵子と話しています。
これも業務用造作なのでしょう。門前の看板はよくわからないけど、まじない師のような、
いかがわしい治療をするようですから。人がすむところ、同じようなものがありますね。
昨日、フランクフルトまで出て美術館をひとつ訪ねました。
マイン川を渡った向かい側まで、ほほを刺す寒風でした。
大阪市役所から堂島川を越えて裁判所へ行く光景に似てい
ます。予期しなかったことですが、大好きなクラナッハの
ビーナスがあり、あれっこんな小さな絵だったかのかと驚
き。フェルメール。それに知らなかったボッティチェリの
作品もあって大感激。 寒いのと中で入ったカフェの値の
高さ以外はよかった一日でした。
外へ出るとき、心がけねばならないことのひとつがトイレとどこで何を食うかです。公衆
トイレは中で何をしているかわからないから入るな。というそうですから、どこか店をみつ
けて入ることになります。一度パスタ屋へ入り、トイレは?と言うと鍵を渡されたことがあり
ました。屋外にトイレがあるのです。お世辞にもきれいとは言えない所で、続いて入った恵子が
掃除をしてから使ったというくらい。料理を渡すカウンターからトイレの鍵を返すなんて、
ここはどこだ?そう言えばあの店のおばさんはイタリア人だったな。清潔で、勤勉で礼儀
正しいはずのドイツに来てどんな因果からこんなことがあるのだろうと、ベッドで考えました。
カフェに入ってコーヒーを飲み、またトイレへ行きたくなってカフェに入る悪循環を考えると
憂鬱になりますね。これから一段と寒くなるのでしょうから。
水よりビールの方が安い国に来て、ビールも飲まず(すぐ行きたくなる)水も制限して歩く
なんてやれやれです。今度はいい気候の頃に来たいもの。
こっちへ来てから、ダルムシュタット/フランクフルト、それかからブォルムス、ハイデル
ベルク。今日はマインツへ行って来ました。25年も昔。パリから列車で初めてドイツへ到着し
たのがマインツでした。暗い石造の建物と鮮やかな市電の色の対比に強い印象を持ったのを
覚えていますが、今日、駅頭に立ってみると特にそんな感じも
ないのが驚き。こっちが歳をとって感受性が鈍ったのか、街の
たたずまいが変わったのか。
シャガールのステンドグラスがある聖シュテファン教会。聖書に
題材を求めたブルーを基調にした美しい作品でした。
週日午前は入る人も少なく、し〜んと静まっています。薄暗い
聖堂と美しいステンドグラス。しばらく座っていると気持ちが
静まってきます。
出口近くのパネル。1942年と45年。2度の空襲で壊れ、炎上し
た写真が。当時の連合軍にこんな教会を壊してどんな得があった
のか。ドイツ市民の戦意をくじくのが目的だったのか。ドレス
デン。ベルリン。(ケルンは損害を受けただけで全壊は免れた)
どこの大聖堂もそうですね。
聖堂横に回廊があり、空襲で壊れた鐘の残骸。石棺。壁には
ゲッセマネの祈りと眠りこける弟子たちのレリーフがありま
した。そこで恵子が長い時間かけてスケッチをしましたが、
その間だれひとり来る人もなく、静寂空間にひたりました。
ここも歩いてまわれるほどの小さな街。マルクト広場の盛
大な朝市を横目にライン河畔へでるとシーズンが終わった
のか、船も数少なくて人影もありません。日差しはありま
したが、川風は冷たく、もう冬の風情です。
しばらくスケッチしてからの戻り道、両側の軒すれすれに
電車が通る狭い道を通りました。昔、西洞院通をチンチン
電車が走っていた風景そっくりでした。
こうして毎日あれこれしているうちにすんで行きます。
英語はまず通じません。
バスの運転手、レストランの人。みんなドイツ語です。
特に東洋系の人の発音はわからない。また英語のメニューは?と聞いても無駄。ありません
上等のレストランに入らないから?)
スーパーで売っている商品にはドイツ語以外に各国語がズラッと書いてあるけど、なぜか
英語がない。(ひょっとすると英国は共通の物流圏にないからか)食品袋にあるレシピを
眺め、「こんな風に料理するみたいやでぇ〜」と恵子には適当に言っておきます。
知ってる単語をつないで憶測しているだけですけど。それで食べられる物が出てくるから
不思議。
ありがたいことに、これまでとくに困ったことがないだけで、これからはどうなるか。
天に任せて行きましょう。
絵になる所に不自由しないけど、不自由なのは腕の方ですから、こっちの方も天を仰いで
行きましょう。
ボッティチェリ
聖シュテファン教会
聖シュテファン教会・回廊
マインツ市街・二本足の人魚像
クラナッハ