鉛の本・鉛の飛行機
鉛って、みなさんどう思われます? 知っているようで見ることがない金属。あぁ、自動車のバッテリーの中か、鉛筆の芯か。でも手に取ってみることはまずない。
地味で鈍重な金属って。その印象だけが濃く心の底にある。鉛色の空とか言いますよね。
ベルリンのハンブルク駅現代美術館には鉛の本が
ありました。鉛の飛行機も。それも超でっかい
やつが。
彫刻といえばその前に立って眺め、左側と右側か
へ移動。そして後ろから見る。ぐるっと回って、
お〜いいなぁとか、イマイチとか思うのが普通。
ここにあるのは縦横高さが8mほどの書棚にぎっ
しり詰まった鉛の本。
一冊が小学生の背丈かもっとか。厚みは20、30
cmもある。ひねくれて、ばらけて、無造作に立て
かけてある鉛の本の山が。これはもう不思議な印象です。書棚はカタカナの「コ」の字になっているので、その中に入れます。前、左右は鉛の本の山。
これには参った。です。見るものを圧倒し、出来栄えの良し悪しを語る気を無くさせます。
やむなく黙って佇む。
立ち去れない。おまけに鉛の表面いは文字らしい形が一面にある。よくまあこんな手の込んだものをしかも「乱雑に」作ったものよ。
作ったのは Anselm Kiefer。コンテンポラリーアートの旗手と言われています。ドイツは
ナチズムとかホロコーストとか、暗く、恐ろしい過去を担っているので、それらへのイメージが制作の原動力となり、作品に反映させているのでしょうか。
かたわらにあったのが、これまた「鉛」で作った
ジェット機。あの軽々と天翔る現代技術の粋を合
わせたエアクラフトが持つ(プラス)記号を全部
(マイナス)記号に置き換えた造形。唸るしかあ
りません。
操縦席の窓には四角い透明の樹脂板がはめ込んで
ある。それが恨みのこもった眼差しに見える。
ボコボコの鉛のそっくり返った板が翼。無造作?
に丸めて翼の下にぶら下げたのがエンジン。
コンニャロ。やりやがったな。と嫉妬に近い感情が湧き出します。
コンテンポラリーアートって、何か仕掛けっぽいところが目立ち、好きではありませんが、キーファーの作品はその点、真面目。はたから文句をつけさせない強さがあります。
いずれも現代(歴史、文化、技術など全体)への強烈な芸術的?「当てこすり」でしょうか。
ずいぶん前(1993)に京都の国立近代美術館で彼の企画展がありました。壁面いっぱいの
大壁画とズラ〜っと並んだ鉛のベッドが印象に残っています。でも鉛の本と本棚の方がさらに強烈な印象を与えています。
彼のアトリエはちょっとした鉄工所くらいの規模だと聞いたことがあります。そうだろうな。でなければあんなの出来ない。納得でした。